-
秋のレンタル楽譜紹介⑦ライフ・ヴァリエーションズ 生命と愛の歌
こんにちは。9月の中秋の名月は見事でしたが、10月はどうでしょうか。
9月の満月でお月見をすると、10月の十三夜でもお月見をするものだ…という話を小耳にはさみました。お月見の夜には、縁側に並べたお供えの団子や果物を、地域の子供たちがもらって回っていたとか…まるで、日本のハロウィーンですね。さて、前置きが長くなりましたが、本日ご紹介するのはこちらの作品です!
ライフ・ヴァリエーションズ 生命と愛の歌 / 鈴木英史
演奏時間:約12分
レンタル価格:33,600円(税込)浜松交響吹奏楽団が、2003年に創立30周年を迎えた際の記念委嘱作品です。
作品のテーマは、タイトルにもある「生命と愛」それも、様々な形を全て包含した「生命と愛」です。
曲は3つの楽章からなっていますが、全て続けて演奏されます。第1曲 誕生と死(Birth and Death)
第2曲 法悦の詩(The Oiem of Ecstacy)
第3曲 愛の歌(The Song of Love)第1曲は、靄がかかったような神秘的な雰囲気から始まります。浜松交響吹奏楽団の指揮者を務める浅田さんのお名前(A-S-A-D-A)を借りたフレーズは、始めのA-S(Es)が増4度関係を成しているので、響きも特徴的ですぐに見つけることが出来るでしょう。また、全体を通してシンコペーションのリズムが多く使われており、ゆらぎやとまどいの表情、「人間も生命も、単純じゃないよ」というメッセージなどが感じられるように思います。
第1曲はとくに、いくつかの表情を持ち、第2曲の冒頭にも表れる「重い楽想」、打楽器が躍動する”Dramatico”のパート、Dramaticoから潮のようにゆっくりと響きがひいてゆき、“動”に対する“静”へと移っていくパート…というふうに大きく分けることが出来ます。
最後の“静”のパートの、フルートのソロ・メロディをクラリネットの響きが支えるアンサンブル、さらに続くサクソフォーンのアンサンブルは、後の第3曲でも再び現れます。第2曲は、第1曲でも現れていた「重い楽想」から始まります。一口に「重い」といいましたが、低音の持続音の上で中音楽器(サクソフォーン、ホルン、ユーフォニアム等)が揃って動いた時の重さ、ということになります。この「重い楽想」のあとには、長い行軍とも呼ぶべき行進に入っていきます。「希望への行進のイメージ」と作曲者は解説の中で話していますが、あたかも“歩”と“走”の中間のような、速さと重さを持った行進です。
行進は強弱によるゆらぎを持ちながらも次第に強く、近くに迫り、最後には混沌の表情で第3曲になだれ込みます。第3曲は、始めは第2曲の足取りを受けて力強いビートを持っていますが、その後はバンドをいくつかのグループに分けて、複数の旋律を展開します。まとまりと分裂が同時に感じられる部分です。ここでもシンコペーションのリズムを重ね、次第に落ち着いた響きになっていきます。
終わりの前に現れるのは、第1曲にもあった“フルート&クラリネット”“サクソフォーン群”によるアンサンブルです。その後、ホルンソロの問いかけにいくつかのグループが答え、光に光を重ねたような真っ白な響きで終わります。
協和音ではないのですが、総奏フォルテシシモで奏でる真っ白な響きです。けっして、引いてはいけません。とても大きな精神的主題を扱った作品なので、コンサートで演奏する際には、この作品を含む部・あるいはその1日のコンサートのコンセプトについてよく考えて使って頂くほど、曲の良さが生きてくるのではないでしょうか。この曲は、「愛と生命への讃歌」であると同時に、それを演奏によって、愛を持って具現化する人々への讃歌でもあるような気がします。
鈴木英史「ライフ・ヴァリエーションズ 生命と愛の歌」は、委嘱団体の演奏によるこちらのディスクでお聴き頂けます。
鈴木英史 ライフ・ヴァリエーションズ
指揮:浅田享
演奏:浜松交響吹奏楽団奇しくも、ちょうど今年創立40周年を迎えた浜松交響吹奏楽団の、楽団創立30周年を記念したCDとなっております。
全10回シリーズでお送りしてきたこの連載も、残すところあと3回となりました。次回は、10月21日に更新の予定です。お楽しみいただければ幸いです。
楽譜事業部
高橋