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秋のレンタル楽譜紹介⑤その胸に抱け青雲の志
こんにちは。今日で9月も終わりですね。
10回シリーズの折り返しとなる今回、ご紹介するのはこちらの作品です。
その胸に抱け青雲の志 / 内藤淳一
演奏時間:約3分半
レンタル価格:15,750円(税込)2002年の下谷賞佳作受賞作品で、内藤氏が氏の長女のために書いたヴァイオリン独奏曲から旋律を引用しています。当時まだ幼かった氏の長男にささげるため、優しさと共に堂々とした表情も持つマーチとなるようなオーケストレーションが施されています。
時間でみれば約3分半と短い作品ですが、子を思う親の心が溢れんばかりに伝わる作品となっています。
曲は6/4拍子(四分音符=80)の、木管を主体とするコラールから始まります。掲げられた曲想標語は”Andante cantabile”。クラシックの名曲「オンブラ・マイ・フ」を思わせる、息の長いコラールです。
穏やかで、素直な優しい響きは、幼少期の子どもをつつむ温かい空気を思い起こさせます。
少しテンポを上げて(四分音符=92、4/4拍子)”Grandioso”に入ると、トゥッティになって9thの音を多用した和音を奏でます。どこか割り切れない複雑な響きは、幼子に芽生えた小さな自我のようにも感じられます。曲の本体となるマーチへの導入は”Con moto”、四分音符=116とさらにテンポを上げていきます。まるで、「子どもが魔法のようにすくすくと成長する様をながめ」「若い鳥が初めて空に飛び立つかのような」高いエネルギーを持ったパートです。
曲の本体である第1のマーチに入ると、逆に少しテンポは落ち着いて(四分音符=96)”Moderato”の指示になります。ゆったりとした旋律に四分音符を刻むバスと大太鼓、スネアの軽快な響きが「威風堂々第一番」を思わせる荘厳な表情のパートです。
主旋律をいくつかの楽器群で持ち回っていて、セクションが変わるたびに音色も変わるのですが、それがあたかも「たくさんの人の手から手へ」、若者が渡り渡されていく様子を想起させます。一貫して感じられるのは、「たくさん、色々な人がいるけれども、皆おおもとのところではあたたかく見守っている」「(対象が)愛されている」という大きな感情ではないでしょうか。テンポはさらに遅く(四分音符=92)、幅を広げて“Maestoso”に入っていきます。音楽そのものも次第に大きくなり、同時にどこか遠ざかっていくような感じがします。
それは、子がその背に親の願いだけをのせて、親の手から離れていくことの描写なのでしょうか。
解説にある「変格終止の繰り返し」は、このMaestosoパートの後半、リハーサルマークでいうとGからの部分にあたりますが、「変格終止」はほかに「アーメン終止」とも呼ばれます。教会音楽で「アーーー、メーーーーン」と歌うところをイメージしてみて下さい。
あそこの箇所は、ほぼ、ほとんどが「アーメン終止」すなわち「変格終止」になっています。
「変格終止」には、「祈りをこめる」という意味を持たせることが出来るのです。最後には、澄んだEbの和音と軽快な打楽器群のリズムで、あたたかく清々しい印象と共に曲を閉じます。
大人が演奏する時には子どものことを思いながら、
学生など若い方が演奏されるときには、今の自分の親の気持ちや将来の自分の気持ちを思いながら、演奏してみて頂くと良いのではないでしょうか。
4分未満の作品ではありますが、心地よい温かさと重みのある、とても充実した作品です。内藤淳一「その胸に抱け青雲の志」は、土気シビックウインドオーケストラの記念すべきリリースCD第1弾に収録されています。
L.バーンスタイン キャンディード序曲
指揮:加養浩幸
演奏:土気シビックウインドオーケストラ現在の最新作は何と第17弾を数えるシリーズの、はじまりの一枚となっています。
秋のレンタル楽譜紹介シリーズ第5回は、内藤淳一作曲の「その胸に抱け青雲の志」をご紹介しました。
次回10月7日の更新です。どうぞ、お楽しみに♪楽譜事業部
高橋